世界を魅了するゴルフツーリズム立国へ小島伸浩氏が語る、日本の可能性と課題
- Kieron Cashell
- Apr 30
- 12 min read

プロフィール
小島伸浩氏(一般社団法人日本ゴルフツーリズム推進協会副会長、一般社団法人みえゴルフツーリズム推進機構専務理事、津カントリー倶楽部副社長、片田ロッジ&ヴィラ社長)
1965年 東京都生まれ 現在三重県津市在住。1989年株式会社トゥモローランドにてゴルフブランドの立ち上げを担当。
1991年~2001年株式会社ピープル(現コナミスポーツ株式会社)にて業態開発、ゴルフスクール事業を担当。 2000年インターネットゴルフ場予約サイトGORA(現「楽天GORA」)立ち上げ後、ゴルフ場再生ファンドの設立を目指し、2002年リンクス・アンド・パートナーズ株式会社を創業。
2004年~2006年、センチュリー・シガゴルフクラブ(現・センチュリーゴルフクラブ)代表取締役、2007年~2009年 出版流通大手である株式会社JL代表取締役。その縁から、2009年3月「ニッポンに詳しくなろう」志誌Japanist創刊に参画。現在はゴルフ場経営の傍ら、地方創生を担うサスティナブルデペロップメント及びゴルフツーリズムの推進による関係人口の拡大に取り組む。

小島さんがゴルフツーリズムと出会った経緯を教えてください。
きっかけは、34年前にトゥモローランドの佐々木社長とハワイのマウナラニを訪れ、アーノルド・パーマー、ジャック・ニクラウス、ゲイリー・プレイヤー、リー・トレビノといったビッグネームのプロゴルファーたちのスキンズマッチを観戦したことです。同じ空間でともに時間を過ごせたことに大いに感動したのを今でも覚えています。それ以降も、ロサンゼルスでロジャークリーブランド社長であるバイロン・ネルソン氏と対談したり、1992年から1994年にかけてオーストラリアのゴールドコーストにあるザ・パインズ・ゴルフコースを練習で何度も訪れたり、1995年には鎌倉カントリークラブの手塚俊氏がオーナーを務めるスペインのサン・ロケゴルフクラブを訪問するなど、これまでに10か国以上でプレーを楽しんできました。ゴルフを楽しむために海外旅行をすることは、今では私のライフスタイルの一部となっています。
中でも、私にとって大きかったのは、訪れた先々の名門ゴルフ場で、様々な国のアマチュアゴルファーがプレーしている光景を見てとても刺激を受けたことです。日本のゴルフ場では考えられないことでしたが、彼らの存在がそのゴルフ場のブランドやクラブライフの価値向上に貢献していることに気づくことができたのです。当時は、まだゴルフツーリズムという概念に出会えていなかったため、もっと日本のゴルフ場は国際交流を進める必要があると強く感じました。また、津カントリー倶楽部はジュニア育成にも熱心で、国際舞台で活躍させるには、早くから国際的な経験を積ませることも重要だと考えていました。このように、ゴルフ場のブランドを向上させていくこと、そしてジュニア育成にも資すると進めたゴルフ国際交流の取り組みが、今のゴルフツーリズムにつながっています。
今でこそ、インバウンドには国内需要の減少を補うという目的も追加されましたが、私にとってインバウンドの原点は国際交流であるという初心は忘れておらず、これが津カントリー倶楽部の今のホスピタリティの礎になっていると自負しています。
インバウンドゴルファーをターゲットにする利点は何ですか?
私は、クールジャパンブームを追い風にかねてよりインバウンドゴルフの国内外への普及に努めてきました。しかし、最も大切なことは、インバウンドへの取り組みを通じて、「日本のゴルフの魅力を再発見する」ことだと同時に訴えてきました。それを、英国をはじめとする欧米豪や、ここ十数年で急速に発展している中国やタイといったアジアのゴルファーとともに実現させることに大きな意味があると思っています。
実は、日本社会が人口減少に転じる前から、ゴルフ場経営の斜陽産業化は懸念されてきました。国内需要の縮小をカバーするには、将来的には必ずインバウンドゴルファーの誘致が必要になると考えるゴルフ場経営者も増えてきています。そして、これからもそれが大きな利点となっていくのは変わらないでしょう。しかし、インバウンドを通じて新たな視点から日本のゴルフ文化を見つめ直し、ルールも含めた遊び方、プレースタイル、運営サービスなども改めるべきところは改めることにより、産業の持続可能性を模索していくことは必要不可欠です。伝統とは常なる進化からのみ生まれると私は信じています。

日本のインバウンドゴルフ市場の発展が重要だと思うのはなぜですか?
縮小する国内需要を補うにはインバウンドゴルファーの誘致は必須となります。またゴルフ場が密集する地域で国内客だけを対象にしていると、近隣との価格競争に巻き込まれるケースが多いですが、インバウンドゴルファーは半年以上も前から予約を入れてくる場合がほとんどであるため、津カントリー倶楽部でも枠を定価で販売することができています。
それだけではありません。日本は観光立国を掲げ、インバウンド誘致に取り組んでいますが、どうしても大都市や有名な観光地に集中する傾向が否めず、訪日客の地方分散は国にとっても大きな課題になっています。
幸い、ゴルフ場は日本全国津々浦々かつ知名度の低い地域にも立地していますので、どの地域でも訪日ゴルファーの誘客が可能になります。少なくとも4~5時間以上かかるフライトで訪日するゴルファーたちは、ゴルフの合間に必ず地域観光を行いますので、その地域の観光産業にとっても受益につながります。海外からのゴルフツアーならではの連泊傾向や消費単価の高さから、一般的なインバウンドより高い消費効果が期待できるのも海外ゴルファーを誘致するメリットです。インバウンドゴルフ市場の発展は、この国にとってはいいこと尽くしと言えるでしょう。

一般社団法人日本ゴルフツーリズム推進協会(Japan Golf Tourism Association: JGTA)を設立したきっかけは何ですか?
海外では、ゴルフをするために旅行する層が一定数存在します。彼らは高所得者層にカテゴライズされますが、日本には2000以上ものゴルフ場があり、世界で三番目のゴルフ大国でありながら、海外市場に向けて全くPRを行ってこなかったため、デスティネーションとしての国際認知度は皆無でした。
そんな折、ゴルフダイジェスト社の木村正浩専務取締役、北海道ゴルフ観光協会の高橋尚子理事と一緒に、世界のゴルフツーリズムをけん引してきた国際ゴルフツアーオペレーター協会(International Association for Golf Tour Operators: IAGTO。ロンドン本部)が主催するアジアゴルフツーリズムコンベンション(AGTC。ゴルフツアーに特化した商談会)の日本への誘致を目指すことになりました。
AGTCの日本誘致を通じて、国際ゴルフツーリズム業界への日本のプロモーションにつなげることを目的に、2015年4月に一般社団法人として立ち上げたのがJGTAです。様々な方々に関わってもらい、2020年の東京オリンピックに向けて国内外に普及広報活動を行いました。そして2018年には国内初となるIAGTOイベント「日本ゴルフツーリズムコンベンション」(三重県)、2019年には「日本ゴルフトラベルマート」(滋賀県)など、日本をPRするための国際商談会を開催しました。
その翌年に念願だったアジアゴルフツーリズムコンベンション(宮崎県)を国内初開催する予定でしたが、パンデミックが起こり、全てのインバウンドがストップしてしまったのです。数年間はどの業界にも厳しい日々が続きましたが、コロナ禍の収束を経て2023年3月、ようやくアジアゴルフツーリズムコンベンション(宮崎県)の開催に漕ぎつけました。世界的なパンデミックのせいで少し勢いがそがれる形となりましたが、ゴルフインバウンドも少しずつ回復傾向に向かっていると感じます。
インバウンドゴルフ事業を開発および実施する際に、日本のゴルフ場業界が直面する最大の課題は何ですか?
まずは、マインドの転換でしょう。会員権を持つメンバーだけを重視してきた姿勢を振り返り、ゴルフ場に来場するすべてのゴルファー・ノンゴルファーをもてなすホスピタリティの醸成が急務だと思います。
特にインバウンドの場合、先方の国ではハーフのあとのランチ休憩がないなど、日本と海外ではゴルフ文化が大きく異なります。すべてを国際スタンダードに合わせる必要はありませんが、本気でインバウンド誘致に取り組まれるのであれば、まずは相手を知ることが大切です。インバウンド誘致に成功している海外のゴルフデスティネーションの視察に行かれるのはとても良い経験になると思います。インバウンドゴルファーに対するおもてなしの精神は、国内ゴルファーへの対応にもいい影響をもたらすことにも気づかれるでしょう。
もう一つの課題は、日本にゴルフ旅行に来たいと思うゴルファーの受け皿となる窓口(旅行会社等)の不足です。
これまでの日本側のPRにより、海外のゴルフツアーオペレーターの中で日本の認知度もあがり、日本に送客したいと思っているところも多いと思います。しかし、日本にはゴルフツアーを受け入れる旅行会社がまだまだ不足しています。今後、日本全体でそうした旅行会社の発掘育成が進み、適正な競争が起こることによって、早期にツアー料金やサービスが向上していくことが望まれます。

あなたが観光客として海外でゴルフを体験したことで、現在インバウンドゴルファーに提供しているサービスの開発に役立ったことは何ですか?
なんといっても、私自身が海外にゴルフ旅行に行くからこそ、来日するゴルファーが何を求めているかという視点に立てることでしょう。
一部の国を除き、ゴルフツアーを誘致するにあたって重要なのは、ゴルフツアーを構成するコンテンツの認識が必要で、①目的地選び、②予算と配分、③ゴルフ場、④宿泊(温泉や飲食を含む)、⑤移動手段、⑥プレースタイル、⑦観光、⑧手配方法や事前準備等があげられます。これらは旅行のコンセプトや同行者が誰かによって求められる質や内容が変わりますし、同じグレードのものを単に組み合わせただけでも失敗します。インバウンドの相談があったときはこれらコンテンツを来日ゴルファーの視点で必ずチェックし、バランスをとるというステップが必要だと思います。
ゴルフツアーを誘致したい地域や旅行会社、ゴルフ場の担当者の皆さんには、ぜひ自らが海外のゴルフツアーに出かけてみることをお勧めします。数時間あるいは長時間のフライトに耐えて移動した旅先に求めるものと、日帰りゴルフで求めるものとは完全に異なることや、インバウンド誘致に向けて必要な準備や受け入れ態勢などもご理解いただけると思います。

特にゴルフ場に、ビジネスの持続的な発展に関してどのようなアドバイスをしますか?
人口減少による国内需要の落ち込みで、今から10年後には全国の2000以上あるゴルフ場の約2割は消滅すると案じています。残ったゴルフ場のうち、海外の富裕層に好まれるようなグレードの高いゴルフ場や大手のゴルフ場運営会社に買収されていくゴルフ場はいいのですが、1000前後と思われるそれ以外のゴルフ場は今後どう生き残っていくのかを真剣に考えなければならない年月となるでしょう。
これまでのゴルフ場の在り方だけでは国内需要の落ち込みに対応するのは難しいですが、選択肢の一つとして、併設の宿泊施設の整備を検討されるのも良いと思います。
津カントリー倶楽部も、インバウンドの拡大を見据えて小規模でラグジュアリーな宿泊施設「片田ロッジ&ヴィラ」を2018年にオープンさせました。当初、宿泊者層はゴルファーを想定していましたが、実は一休.com等の予約サイトから入るノンゴルファーの割合が5割にものぼっているのです。ゴルフ場に宿泊する「非日常感」へのニーズが意外に多いということがわかります。津カントリー倶楽部では、季節に応じて牡蠣フェアやいちごフェアなど、レストランを使って近隣のノンゴルファーに来場してもらう工夫なども行っています。ゴルファーは確実に減っていきますから、ノンゴルファーに向けたビジネス展開を積極的に検討される時期にきていると思います。
廃業してしまうゴルフ場を救う手立てはあると考えてみえますか?
あります。ぜひ提案したいのが、そうしたゴルフ場を地方自治体に事業継承してもらうことです。例えば、世界で最もゴルフ人口の多い米国では、地方自治体が所有・運営しているパブリックコースが約2900も存在します。有名どころではサンディエゴ市が所有するトーリー・パインズ・ゴルフコースや、ニューヨーク市に属するベスページ・ブラックコースなどです。世界クラスのゴルフ場もありますが、そのほとんどはそれほど素晴らしいものではありません。しかし、そうしたゴルフ場は広く一般に開放され、低価格で全世代からアクセスしやすく、気軽にゴルフに親しめる機会を米国民に提供しています。
実は、熊本県にある雲仙ゴルフクラブは、当初、県営ゴルフ場としてスタートしています。まったく前例がないわけではないため、今後、日本でも公営のパブリックゴルフ場の整備が進み、市民が気軽に自然に親しめるスポーツの一つとして広がってくれることを強く願っています。
10年後の日本のインバウンドゴルフ事業はどのようになっていると思いますか?
今、海外ツアーを見ていると中国、韓国、タイ、シンガポールの選手の活躍が目覚ましいため、今後10年でかなり大きなゴルフツーリズム市場に育っていくと思われます。その背景となる韓国や中国、台湾などの社会情勢がどう動いていくのかは不透明ですが、こちらも今後10数年で大きく様変わりしていくことが想定されます。
こうしたことを踏まえ、上記市場のインバウンド誘致に取り組むことが重要ですが、いずれは自国と日本を行き来しながらゴルフプレーを楽しむ二拠点生活のインバウンドゴルファーの割合も確実に増えていくとみています。そうなると、併設の宿泊施設もしくは住宅(賃貸・建売)を有するゴルフ場は非常に大きな強みとなります。ぜひ宿泊施設の整備は前向きに検討されると良いと思います。
最後に全般的なことになりますが、一般的なレジャー観光は、政府の方針のもと、国が大きな予算をかけて海外にPRした結果、日本の人気は非常に高くなりました。人気が出すぎて有名観光地では観光公害も起こっているほどです。
日本は世界で三番目にゴルフ場が多く、かつ様々な地方に立地していますので、日本政府もこの資源を活用しない手はありません。
タイがゴルフデスティネーションとしての地位獲得に成功しているのも、タイ政府観光庁がゴルフツアー誘致に予算をかけて支援してきた結果に他なりません。
知名度の低い地域へのゴルフツアーの誘客を通じて経済活性化を図るためにも、ぜひ国にはゴルフツーリズムの振興を観光立国の柱の一つに掲げ、てこ入れしていただけることを大いに期待したいものです。
写真: 小島さん
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